どんな本?
経済を学べる「小説」
本書は、お金や経済のことを物語を通して学びながら、最後には感動を味わえる小説となっています。経済のことを知りたいけど、ビジネス書はとっつきにくいと言う人も読みやすい本です。
中学生の少年の視点から、誰もが感じている経済の疑問を解き明かしていきます。難しい専門用語について学ぶのとは違い、物語を通して疑問に対する答えがストンと胸の中に落ちてきます。
心も豊かになる「教養」が身につく
お金を信じるあまり、人生の選択がお金中心になってないか、お金の向こう側にいる人の存在を忘れてないか。そんな気づきを与えてくれます。一人ひとりが豊かな未来を目指す中で、視点がお金中心になってしまうと、人とのつながりが見えなくなり孤独な社会になってしまいます。それでは、社会の未来を明るくするためにはどうしたらいいのか?
いくつもの経済の謎を解きながら最後に出した答えは、とても心が温かくなるものでした。大人から子供まで経済の教養が身につき、心も豊かになる経済小説です。
あらすじ
- 優斗:中学2年生。親はトンカツ屋を営む。将来は年収の高い仕事に就きたいと考える。
- 七海:アメリカの投資銀行の東京支店で働く。上司に言われ、ボスのところに投資を学びにきた。
- ボス:投資で莫大な富を築き、錬金術師と呼ばれる大富豪。高い塀に囲まれていて謎めいた古い洋館に住む。
中学2年生の優斗と投資銀行勤務の七海は、大雨の日に出会い、謎めいた屋敷に足を踏み入れる。屋敷にはボスと呼ばれる大富豪がおり、「この建物の本当の価値がわかる人に屋敷をわたす」と告げられる。それ以降、ボスからは「お金の正体」と「社会のしくみ」についての講義が始まる。
本書を手にとったきっかけ
主人公の抱えるモヤモヤへの共感
主人公・優斗はトンカツ屋の両親を持つ中学生です。「お店のお客さんがえらそうにするけど、働く方はえらくないのか」「投資で儲けるお金持ちはずるい」と言った社会に対する等身大の不満や疑問に、とても共感しました。
私も実家は自営業で、一生懸命働いて苦労しても生活がなかなか楽にならないもどかしさを、子供ながらに感じていました。優斗と自分の境遇が似ていて、まるで昔の自分を見ているようでした。
投資で儲けるのは「ずるい」?
優斗はボスから投資で20億という金額を聞いて、「ずるい」という言葉がつい口から飛び出してしまいます。優斗の両親がどんなに働いても絶対に稼げるはずのない金額ですが、決して両親がなまけているわけではありません。「すごい」と言うと両親を否定する気がして「ずるい」と言ってしまう優斗。そこにはどうにもならない格差があるように感じます。
お客様は神様?
また、お金で解決できる問題はないというボスに対して、両親の店でえらそうにするお客さんがいることから、「お金がいろんなことを解決してくれるから、みんながお金を欲しがるし、お客さんが神様になる。」と反論します。ですが同時に、それに対して受け入れ難い違和感も感じていて、「ご飯を作ってあげているのはうちの親の方なのに、お金を払う方はそんなにえらいのか。働く人に感謝するなんて子どもでも知っていることなのに。」と不満をもらします。
誰もが感じる不平等や格差への答えとは?
主人公の感じるモヤモヤは、誰もが心のどこかで感じたことがあるのではないでしょうか。子供でも感じているような経済の不条理や格差を、この物語ではどんなふうに説明し結論づけるんだろう。これから社会に出る若者たちのためにも、救われる答えであってほしい。そんな思いで本書を手に取りました。
おすすめポイント
小説なのでとっつきやすい
物語を通して自然と経済の考え方に触れられます。
単なる会話形式で経済について説明するというのではなく、ストーリーも面白い小説となっています。ボスが本当は何者なのか、屋敷を譲るというのにはどういう意図があるのか、少しずつ明らかにされていくストーリーは最後まで面白く読み進められます。
難しい言葉がでてこない
本書では、以下のような経済の問題について学べます。
- 日本の借金
- 物価上昇
- 貿易赤字
- 経済格差
- 少子化
- 老後のお金
よく聞く経済の話題で、難しい話が始まるのではと身構えるかもしれませんが、心配ありません。主人公がごく普通の中学生なので、中高生でも分かるような言葉・例え話で説明されていてとても分かりやすいです。
主人公の持つお金に対する素朴な疑問や、社会への不満などの素直な気持ちに共感しながら、真剣に経済のことを考えることができます。
今まで難しいと思っていた経済のことも、自分の生活に照らし合わせて考えることができ、身近なものに感じられるのではないでしょうか。
6つのお金の謎を解き明かす
本書では以下のような謎を解き明かしていきます。
- お金の謎1:お金自体には価値がない
- お金の謎2:お金で解決できる問題はない
- お金の謎3:みんなでお金を貯めても意味がない
- 格差の謎:退治する悪党は存在しない
- 社会の謎:未来には贈与しかできない
- 最後の謎:僕たちはひとりじゃない
お金に価値はない、お金で解決できる問題はない、お金を貯めても意味がない…。一瞬「いやいや、そんなことないのでは」と反論したくなるような内容ですよね。
実際、お金さえあれば何でも解決できるきがしませんか?お金があれば欲しいものを買えるし、無理して働かなくてすむし、貯金しておけば将来どんなことがあっても大丈夫。誰もがそんなふうに考えますよね。でも本当にそうなのでしょうか。
本書を読めば、「そうだったのか」と納得でき、経済の本当の姿が分かります。お金が万能だと思うあまり、人生の判断をお金だけに左右されてないか、立ち返って考えるいい機会にもなります。
最後に感動する結末が待っている
この本の最後では、私たちがこれからこの社会をどう生きていけばよいか、どうしたら社会は良くなるのかという疑問に対して、心温まる答えが示されます。物語だからこそスッと受け入れられる答えだと感じました。
経済の主役は、無機質な「お金」ではなく私たち「人」なのだから、経済のことを頭で考えるだけでなく、心で感じることも大事なのではないでしょうか。
経済を学ぶだけではなく、やさしい捉え方ができるようになる本です。まさに大人から子供まで持っておきたい「教養」だなと思いました。
おすすめな人
以下のような人は、ぜひ本書を読んでみることをおすすめします。
- 経済の本は難しそうだけど小説なら読んでみたい。
- 経済の不平等や格差へのモヤモヤを解消したい。
- 経済を学ぶ小説なのに、最後に待っている感動する結末が気になる。
- 読後感の良い本が好き。
- 子供に経済のことを知ってほしい。
- 親子で経済を学びたい。
「どうしたらお金で隠された人と人との繋がりを取り戻せるのか」。本書で示されたその答えが、とても心温かくなるものでした。ぜひこの本を読んで、「経済の優しい捉え方」に触れてみてください!