保険については社会人になると必ず悩むポイントです。しかし、多くの人が保険に関して正しい知識を持っているとは言えません。
保険は一度契約すると長期間にわたって払い続けることが多く、生涯を通して払う保険料は家の次に高い買い物とも言われます。また、途中で解約すると損になることもあります。
保険のデメリットも踏まえた上で、基本的な知識をしっかり押さえ、慎重に契約することが大切です。
保険は冷静に自分で判断することが大事
保険に関して、以下のようなイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。
- なんとなく入らないと不安
- 他の人がみんな入っているから入る
- 営業の人がすすめてるんだから大丈夫
- 保険料が高い=内容が充実している
- 保険は必ず増えて戻ってくるもの
こういったイメージは間違いで、一人一人経済状況や家族構成などが違えば必要な保険も支払う保険料も違ってきます。年齢や職業、収入や貯金、養っている人がいるかどうかなど、自分の状況に合わせて必要な保険を選べるようになりましょう。
保健選びが難しい理由
人は損をする時や将来への不安を感じると大きなストレスを感じます。そして保険は特約も含めて種類がとても多く、仕組みが複雑で、知識のない人には何が何だか分からなくなってしまいます。考えるのをやめて安心したい気持ちから、保険会社の人や紹介者のいう通りに契約してしまいがちです。
このように保険は、知識がないことや、先々何が起こるかわからない不安から、適切な判断のもと契約するのがとても難しいのです。
安易に入ると後悔することに
自分で冷静に判断できずに、すすめられるがままに入った保険には無駄が多く、お金の上手な使い方とは言えないでしょう。
一度契約すると長期間にわたって払い続けることになり、途中で解約すると損になることもあります。大切なお金を失わないためにも、保険のデメリットも含め正しい知識を持っておきましょう。
2. 保険のデメリット
保険には掛け捨てと貯蓄型の2種類があります。
- 掛け捨て:支払った保険料が戻ってこないタイプ。安い保険料で大きな金額の保証が得られる。
- 貯蓄型:満期保険金や解約返戻金が返ってくるタイプ。万が一の保証と貯蓄や資産運用を兼ねている。掛け捨てより保険料が高く、中途解約すると元本割れする可能性がある。
貯蓄型保険は、「支払った保険料が無駄にならない」と良さそうに思えるかもしれませんが、デメリットが意外と多いので知っておきましょう。
- 資金が拘束される(途中解約で元本割れ)
- 利回りが低い
- 契約後の金利上昇に対応できない可能性
- 手数料が高い投資信託と同じ
- 満期時や解約時に課税される可能性
それぞれのデメリットを詳しく説明していきます。
資金が拘束される(中途解約による元本割れのリスク)
満期保険金が受け取れるタイプの保険は、中途解約すると戻ってくるお金(解約返戻金)が支払った保険料よりも少なくなることがあります。これを元本割れといいます。途中で解約すると損をしてしまうため、心理的に一度契約すると解約をしにくくなってしまいます。
他のことにお金が必要になったのに、もっと最適な保険や預金先・投資先を見つけたのに解約できない。これが保険に資金が拘束されてしまうということです。時には思い切って解約してしまった方がいい場合もあります。
利回りが低い
満期まで契約すれば、払込んだ保険料よりも増えて戻ってくるからお得と思うかもしれません。しかし、利率で比べると定期預金と変わらないくらいのことも多いです。それなら、定期預金に入れていた方が元本割れのリスクがなく、資金の拘束性も低いです。
バブル時代などの好景気の時は利率が5~6%ほどもあり、満期保険金が2倍になって返ってくることもあるくらいでした。そのこともあって日本では保険で儲かるイメージがいまだに抜けていません。今は保険でお金を増やす時代ではないこと覚えておきましょう。
契約後の金利上昇に対応できない可能性
契約した時の利率がずっと適用される保険の場合、契約した後に定期預金金利が上昇しても、低い利率のままになります。金利の高い定期預金に乗り換えたくても、中途解約で損してしまう可能性があります。
手数料が高い投資信託と同じ
保険会社も、支払われた保険料の一部を投資して運用しています。外貨建て保険や変額保険と呼ばれるものは、為替(円高円安)や投資の成績によって満期保険金が減ったり増えたりします。こういった保険は、保険料から確実に投資の手数料分が引かれており、その手数料は自分で投資するよりも割高になる場合が多いです。
保険を通して投資する場合も、自分で投資をする場合もリスクは同じです。それなら、自分で手数料の安いネット証券で資産運用をした方が手数料分損をしなくてすみます。資産形成と保険は別々で考えましょう。
満期時や解約時に課税される可能性
払い込み保険料より満期保険金や解約返戻金が多かった場合、課税される可能性があります。
現在は、NISA口座を開けば運用した利益は非課税となっていますので、NISA口座で自分で資産運用した方がお得ですね。
保険は掛け捨てが合理的
以上のデメリットを踏まえると、保険は最低限の掛け捨てタイプにして、自分で貯金や投資をすることが大切です。
次に、具体的にどんな保険に入るべきかのポイントを押さえていきましょう。
3. 必要最低限の保険とは?
保険はもしものことが起こった際に必要ですが、手厚い保証があればあるほどいいということではありません。保険料が高くつき、貯金ができなくなったり、生活が苦しくなっては本末転倒です。それでは最低限入るべき保険とは、どんな保険でしょうか?
保険の選び方には以下のポイントがあります。
- 起こる確率が低い大損失に備える
- 貯金で対応できるものに保険は不要
- 国の社会保障の足りない部分を民間保険で補う
- 貯蓄・投資と保険は分けて考える
各ポイントについて説明していきます。
起こる確率が低い大損失に備える
事故を起こして相手を怪我させたり死亡させてしまった場合、数億円の賠償金が必要となります。また子供のいる人が若くして亡くなってしまった場合、生活費や教育費として数千万必要となります。こういった場合は貯金では対応できないので、保険で備える必要があります。
貯金で対応できるものは保険は不要
例えば病気やケガ、車の修理などは数万〜数十万円くらいの貯金で対応できる金額に収まることが多いです。こういった人生で誰もが経験するような、起こる可能性が高いものについては、保険料は高くなります。支払われた保険金と払い込んだ保険料と比べると、「貯金してた方が良かった」となる場合も多いです。
国の社会保障の足りない部分を民間保険で補う
病気や怪我、障害や死亡、老後の生活など誰もが心配するような出来事には、国の社会保障があります。心配しなくても、私たちはすでに最低限の保険に入っているのです。年金や健康保険をはじめとした国の社会保障について、その保障内容をしっかり理解しましょう。国の社会保険制度について、詳しくは後述します。
貯蓄と投資と保険は分けて考える
保険会社を通じて投資をする場合、割高の手数料が保険料から引かれます。最近ではネット証券でかなり安い手数料で投資することができます。保険会社の方が上手に運用してくれるというわけではなく、その実態は投資信託を保険会社を通して買っているのと同じことです。
保険を通して投資する場合も、自分で投資をする場合もリスクは同じ。自分で投資をした方が、必要な時に現金化したり、状況に合わせてリスクを下げたり、高いリターンを目指したりと自由な選択ができます。ぜひ保険ではなく自分で投資をしてみましょう。
そもそも保険に入る意味
そもそも保険に加入する目的は金銭的に得をすること、お金を増やすことではないはずです。保険で備えようとしているトラブルは、本当に生活が立ち行かなくなるような大損失に当てはまるのかを考えてみてください。
貯金がどれくらいあるかや収入の高さなどでどれくらいの負担が大損失になるかは違ってきます。貯金が全くない人は、病気や怪我でも生活が立ち行かなくなるほどの「大損失」になり得ます。
リスクの大きさは人によって異なるので、一人一人が自分の状況に合わせて考える必要があります。
4. 具体的な保険の選び方
必要最低限の保険は4つ
保険のデメリットや必要な保険の考え方を踏まえると、必要最低限の保険は以下の4つになります。
- 掛け捨て生命保険
- 自動車保険
- 火災保険
- 個人損害賠償責任保険 ※特約として加入
それぞれどんな保険か見ていきましょう。
掛け捨ての生命保険
自分の死亡や障害などにより、養っている家族が生活に困らないようにするための保険です。多くは子供がいる場合でしょう。国の保障である遺族基礎年金や遺族厚生年金で足りない生活費や子供の教育費を補う金額を設定しましょう。
生命保険の種類は、定期保険いわゆる掛け捨ての保険にしましょう。30年など保険期間が決まっており、期間が過ぎると保証はなくなります。満期保険金や解約返戻金はなく、払込保険料は戻ってきませんが、保険料がかなり安く済みます。
例えば、2,000万円の保険金額で、30歳から保険期間30年間で契約した場合、月2,500円ほどになります。(※保険会社や年齢・設定する金額・期間により異なります)
- 安い分貯金に回しましょう
掛け捨ては貯蓄型より保険料がかなり安いので、その分貯金や投資に回しましょう。貯蓄と保険は分けて考えた方が、保険のデメリットを受けなくて済みます。また、自分が亡くなった時の残さないといけないお金というのは、歳を重ねるごとに小さくなっていきます。子供が独立したら保障は必要なくなりますので、子供が独立するまでの一定期間で十分なのです。
自動車保険
自動車を購入した際には必ず自賠責保険に入りますが、合わせて任意保険にも入ります。
対人・対物無制限を必ず選ぶ
自動車保険の任意保険を契約する際には、「対人・対物無制限」を選ぶようにしましょう。事故を起こした時の相手に対する損害について、人への損害・物への損害どちらも保険金の支払い限度額を「無制限」にするということです。
なぜかというと、自賠責保険の補償には一定の限度があります。例えば、死亡させてしまった場合3,000万円などです。しかし、死亡事故や大きな障害を負ってしまった場合、3億円〜5億円にものぼる賠償が必要になる場合があります。自賠責保険だけでは到底足りません。契約の際には必ず「対人・対物無制限」を選ぶようにしましょう。
他にもいろいろな特約がありますが、できるだけ保険料を安く押さえたいのであれば、特約はあまり付けずにシンプルな保険内容にしましょう。
車両保険の必要性は低い
車両保険は、自分の車が損害を受けた際に、車の修理費に対して補償を受けることができますが、つけると保険料がかなり高くなります。さらに、保険を使ってしまうと、契約者が事故を起こすリスクが高いとみなされ、(「等級が上がる」と言います。)次年度から支払う保険料が上がってしまうことがあります。保険料上昇分を考えると、保険を使わないで自費で修理した方が安かったということになるかもしれません。車の修理代は貯金で用意しておくのがいいでしょう。
また、付けておくといい特約として「弁護士特約」があります。
弁護士特約は検討する価値あり
相手側が、自賠責保険にしか加入していない、保険自体に加入していないなど、様々な理由で交渉がスムーズに進まない場合があります。そんなときに、弁護士への依頼費用を補償してもらえます。同居の家族や別居の未婚の子も対象となることが多いので、家族の誰かが入っていないか確認してみましょう。つけても大きく保険料が上がる特約ではないので、ぜひ検討してみましょう。
火災保険
火災保険は、火災だけでなく風水害などの自然災害や盗難などによる建物や家財への損害を補償する保険です。
以下のような場合に補償の対象となります。
- 火災・落雷・風災・雪災・水災・飛来物・水漏れ・盗難
保険によって補償される範囲が異なり、範囲が広くなるほど保険料が高くなるので注意が必要です。
地震による損害は補償されません。地震保険は火災保険と必ずセットで入る必要があります。
賃貸契約や、住宅ローン契約の際に入ることになります。保険の対象には建物と家財の2種類があります。賃貸では建物は大家さんが保険に入っているので家財部分の保険に入ることになります。持ち家の場合は両方ともセットで保険に入ります。
賃貸や住宅ローン契約の際に提示された保険だと、必要以上に手厚い補償で割高なことがあるので、保険料を節約したい際は自分で選んだ火災保険を契約するといいでしょう。
個人賠償責任保険 ※特約として加入
個人賠償責任保険は、日常生活で他人を怪我させてしまった場合や、他人の物を壊してしまった場合などの損害賠償に備えた保険です。
例えば、以下のような時に補償の対象となります。
- お会計していないお店の商品を壊してしまった
- 飼い犬が他人を噛んで怪我させてしまった
- 自転車にのっていて歩行者とぶつかり怪我をさせてしまった
保険金額は1億円が目安
過去に自転車事故で約1億円にのぼる賠償請求がされたケースもあり、個人賠償責任保険は1億円を保険金額の目安にするといいとされています。
自動車保険や火災保険の特約として入れることが多いので、どちらかの保険に入る際には、特約を確認してみましょう。また、同居の家族や別居の未婚の子も補償の対象になることが多いので、独身の場合は親の保険を確認してみましょう。
入る必要性の低い保険
以下の保険は、自分で貯金したり投資したりすることで対応できる保険ですので、入る必要性は低いでしょう。
- 医療保険(病気・ケガ)
- 傷害保険(ケガ)
- 介護保険
- 貯蓄型保険
- 養老保険
- 学資保険
- 個人年金保険
- 外貨建て・変額保険
これらの保険は貯蓄と生活費のバランスで考える
そうはいっても、これだけさまざまの保険がある中で入らないと不安…と思う方も多いかもしれません。
人それぞれ状況が違えば、リスクの大きさも違います。不安を解消して毎日を安心して暮らすことも大事です。もしもの時に大変な思いをするのは自分や家族ですから、デメリットも踏まえた上で必要と判断するのであれば、以下のポイントに気を付けて入る保険を選んでみましょう。
- 保険料が生活を苦しくしてないか
- 目標とする貯金ができているか
- 自分で保証内容が理解できるか
起こるか分からない出来事の備えのために今の生活が苦しくなっては本末転倒ですし、貯金ができないから保険で備えるしかないという負のサイクルに陥ってしまいます。また保証内容が理解できていない保険に入って安心を得るのでは意味がありません。
保険はシンプルが一番
特約には、そこまで保険料の負担が大きくならないものもあります。しかし、たくさん特約をつけると保険料が上がってしまったり、他の保険と重複したりして保証内容が複雑になってしまうので、最低限の特約に絞ってシンプルな保険契約にするのがいいでしょう。
5. 国の社会保障制度の理解
病気や怪我や働けなくなった場合に備えなくていいの?と不安に思うかもしれません。しかし、こういった場合は日本の社会保障制度で最低限保証されています。
日本の社会保障制度についても理解しておく必要があります。
- 高額療養費制度
- 障害年金
- 遺族年金
- 失業給付
- 傷病手当
- 労災保険
以下に制度の概要と、給付金の金額の例をあげます。
※給付金の金額はあくまでも例です。さまざまな条件によって給付の有無や支給額・支給期間などが決まってきますので、参考までにとどめておいてください。
高額療養費制度
医療費が月にどれだけかかっても、自己負担限度額を超えた分は払い戻しがある制度。月約9万円程度が限度。
障害年金
ケガや病気によって働くことに制限がある場合に給付されます。給付される金額は、障害の重さや子供が何人いるかなどで変わってきます。例えば、子供が1人いる場合、国民年金だと8〜10万円万円。厚生年金はこれに加えて配偶者の加算や報酬比例の年金額が加算されます。
遺族年金
亡くなった人の家族に対して支給されます。国民年金では、18歳未満の子供がいる場合、厚生年金では子供がいない場合も支給されます。給付される金額としては、例えば子供が1人いる場合、国民年金だと8万円、厚生年金だと11万~14万円程度になります。
失業給付
雇用保険の加入している人が失業した場合に給付されます。受けられる手当は、退職理由が自己都合が会社都合か、勤続年数や年齢によって変わってきますが、だいたい月給の50%~80%、給付期間は3〜4ヶ月間とイメージしておきましょう。
傷病手当
勤務先の健康保険に入っていた場合に、病気や怪我で4日以上仕事に就けない場合に給付されます。期間は最長1年6ヶ月、給料の2/3程度の給付が受けられます。
労災保険
勤務中や通勤中の怪我や病気、死亡や障害に対して給付されます。治療や入院に対する医療費の自己負担はありません。
自営業や個人事業主は注意を
※健康保険や厚生年金に入っていない自営業や個人事業主の場合は、失業給付や傷病手当や労災保険がなく、各種年金も上乗せ部分がありません。会社員と比べると保障が手薄なので注意が必要です。
6. まとめ
社会人になったら焦って保険に入ってしまわずに、以下のポイントを押さえて自分に合った最適で最小限の保険に入れるといいですね。安易にすすめられるがままに保険に入って保険貧乏にならないよう、大切なお金を上手に使っていきましょう。
貯金は保険と違い何も起きなければ、用途を限定されることなく自由に使えます。保険料を最低限にした分、しっかり貯金していきましょう。
最後に、保険は誰にでも当てはまる正解はありません。自分の状況に合わせて自分で判断できるようにしましょう。以下にポイントをまとめましたので、ぜひ保険を考える際の参考にしてくださいね。
- 掛け捨て生命保険
- 自動車保険
- 火災保険
- 損害賠償保険 ※特約として入る
- 起こる確率が低い大損失に対して保険で備える
- 貯金で対応できるものに保険は不要
- 国の社会保障の足りない部分を民間保険で補う
- 貯蓄・投資と保険は分けて考える
- 保険料が生活を苦しくしてないか
- 目標とする貯金ができているか
- 自分で保証内容が理解できるか
- 資金が拘束される(途中解約で元本割れ)
- 利回りが低い
- 契約後の金利上昇に対応できない可能性
- 手数料が高い投資をしてるのと同じ